利便性と安全性と専門性の間で 2

さて、「利便性と安全性と専門性の間で 1」の続きです。


  • 1の冒頭でも触れましたが、今回の指摘が「利便性と安全性」「コストと専門性のバランス」に焦点を絞って議論されていることから、このブログも金銭的な事ばかりに終始している感じがありますが、我々薬剤師は「患者様に最善の医療をお届けするために、その専門性をより発揮できる環境を望んでいる」という事は曲げようのない事実です。その点、何卒ご理解ください。

1では、職能を分化していくことで、分化する前の職能も、分化された職能も、それぞれ更に磨きがかかる(専門性が高まってゆく)のではないかと書きました。

以下は、その続き…とくに規制改革会議の内容に触れたいと思います。

 

別企業としての「薬局」を病院の中に設置するという話が、規制改革会議で挙がっていました。

「病院には既にコンビニが入っている。問題ないでしょう?」

というご意見です。

 

果たしてそうでしょうか?

 

私が子供の頃、幼いながらにニュースでよく耳にした単語があります。

「官製談合」

という言葉です。

 

端的に言いますと、仕事を発注する側と受注する側で癒着があり、公平・公正ではない状態の事ですよね。これを防ぐために入札制度なども導入していましたが、それでも絶えなかった…という事だと認識しています(特に行政が発注側だったことで問題が大きくなったようですが)。

 

では、理想の状態は何なのか。

受注を希望する側が、発注する側から等しく情報を受け、複数の受注側が発注側に「私が請け負う事になれば、これだけの仕事(低価格、最新技術等)をしてみせます!」と提示し合い、発注側が明確な理由・解答を持って選択する。

…という事ではないでしょうか?

 

さて、以上を踏まえて「病院・医院」と「薬局」の関係を考えてみましょう。

(処方せんによる保険調剤のみについて記述します)

 

医師の診断に基づき、患者様のための処方が行われます。

そして、その内容を書いたものが「処方せん」です。

これを病院・医院が発行し、患者様が受け取り、ご自身で薬局に向かわれ、薬剤師のチェックを経たあとに調剤、医薬品の交付となる…というのは、皆様ご存知のとおりです。

 

すなわち、保険調剤において薬局が収入を得る場合、処方せんを受け取る必要があります。逆を言えば、処方せんがなければ、薬局は仕事が発生しないわけですから、収入も得られません。

私が「官製談合」という言葉を思い浮かべた理由がここにあります。

病院内にコンビニが設置されることと、薬局が設置されることは、決して同列の問題では無いのです。

薬局の収入を大きく左右することになるため、現在まで「構造的な独立性」をもって「経営的な独立性」を担保していたわけです。

これを逆にとって「経営的な独立性が担保されていれば、構造的な独立性も認められるから、問題ない」とされるのは、やはり詳細をご存知ない方特有の意見と言わざるをえないと思います。

じゃんけんで、「グーはチョキに勝ち、パーはそのグーに勝つから、パーはチョキにも勝つ」と言われて、それが正しいと思う人は何人いるでしょうか。理論の挿げ替えに近い論法だと思います。


 

加えて。「1年ごとにでも薬局を入れ替えればいい」というご発言もありました。

ようやく薬剤師と顔見知りになって、世間話もして、健康相談もしてみようと思った矢先に全く別の薬局に入れ替わったら?

 

もちろん、薬局側にとっても大きな負担になります。

医薬品を切らすわけにはいかないので、常時1000種類~2000種類は備蓄するはずです。1種類につき1錠…という事はあり得ませんから、それこそトラック1台分くらいは優に超えるでしょう。これらの在庫の他、専用の機械類もあります。

 

薬局が入れ替わるとき、病院は救急外来もありますから24時刊365日稼働しているところが多いでしょう。

そんな中、「薬局入れ替えのため、今日から1週間は他の薬局をご利用下さい」などと受け付けで言われたらどうなるでしょう?

薬局の負担どころではなく、患者様にもご迷惑をおかけすることになりませんか?

 

皆まで言いませんが、「分化と専門性」に逆行し、経営上ズブズブの利害関係を誘発し、挙句患者様にも大きな迷惑をかけかねないプランだと思うのは、私だけでしょうか?

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